心許なくて震えてた東京生活

俺が東京から逃げ出して1年が経過していた。今にして思えば、東京に友達がいるわけでもないのに、単身で引っ越すなんて、そりゃ無理がある。しかも街並みも人の流れも人間のタイプも電車の混み具合も、何もかも岡山とまったく違うのだから、いよいよ岡山に帰りたくなるに決まっている。おまけに仕事さえ決まっていれば、職場の人と仲良くなったりして、孤独を紛らわせたかもしれないし、草野球チームに入れば、なおのこと寂しさを感じずに済んだかもしれないが、どう考えても、俺の職歴や、コミュ力で、仕事にありつくことなんて困難だ。いや、拘らなければ、可能だったろうけど、当時の俺は、なぜITエンジニアなぞに拘っていたんだろうな。たしかに、プログラミングなんかは、面白いっちゃ面白いけど、仕事としてはどうか分からないところだ。今でこそ、工場以外なら、営業でも職人でも、なんでもいいよって感じで、あのとき変に拘らなければ、東京でもうまくやれてたのかな。しかし、通勤!俺は、東京の電車には、とても耐えられない。今でも耐えられない自信がある。あれは、めちゃくちゃだ。ぎゅうぎゅう詰めの中に身をねじ込んで、窮屈な体勢で何十分も我慢する、そのストレスと疲れに耐えられる自信は無い。駅に列車が到着して、ガァと扉が開いたら、すでに出入口のギリギリまで人間がギッシリと詰め込まれている。気まずくて入りたくない。でも入らないと家へ帰れない。電車に乗るたび悩まされる。東京の電車はめちゃくちゃだ。どうかしている。でも、いいこともあった。ぎゅうぎゅう詰めの中に立っていると、新しい乗客が乗り込んできて、俺の目の前にいた若い女性が、俺の方へ押し込まれて、その女性のおしりが、俺の股間に押し付けられるではないか。あれは至福であった。一方で地獄の思いだった。勃起でもしようものなら、痴漢だなんだと騒がれ、駅員に交番へ連れていかれかねない。至福と思いと恐怖で、とてつもなく汗をかいたものだ。それはともかく、仕事が見つかっても、通勤には耐えられなかっただろうな。東京は俺の生きていける街では無かった。
おととい、面接を受けた。あさっても面接がある。受かって、給料を貰えるようになったら、そのうち風俗に行こう。女の体に触りたい。